鼻濁音のコツと注意点
鼻濁音は、話し方を優しく滑らかにする


見た目は普通のオジサンであっても、
また、
声や発音が傑出して美しいわけでもないのに、
説明上手、とか、
演説や講演の名手、
などと呼ばれる人が存在します。
それを考えても、
上手に話す意義、というのは、
「効果的に伝わること」
なのであって、
表面的な美しさではないとは思うのですが、
やっぱり、
話し方を磨く、というと、
消極的な意味合いでは、
人に侮られたくない、
積極的な意味では、
綺麗に話して、
聞く人をうっとりさせたい、
と思うのが人情ですよね。
ここのところ、
話す内容についての記事が続いてきましたから、
今回からは、
久しぶりに、
発音など、
話し方を綺麗にする基本について、
改めてチェックしていきたいと思います。

発音を改善するためには強い「意識」が必須

テレビを見ていたら、
中堅~ベテランの部類に入るような男性アナウンサーが、
こんなニュース読みをしていました。
「15歳」を
「じゅう『ンご』さい」
「東京ガス」を
「とうきょう『ンが』す」
意識し過ぎたのでしょうか?
あるいは、
間違った認識をしているのでしょうか?
それとも、
単に口を突いて出してしまったのか・・?
話すという行為は、
肉体を駆使して行うものですから、
時として、
意図しない音を出してしまったりするものです。
そうならないためには、
・強く意識すること
・体で覚えること
だと思います。
そういうこともある、
ということを知って、
意識的に改善する気がなければ、
自然に良くなることがほとんどないのが、
話し方です。
ほとんど、というのは、
性格や生き方が一変することで、
話し方が変わるのは、あり得るからですが、
その話を、
ここで深掘りするのは、やめておきます。
今回は、
鼻濁音の使い方の問題です。
まず、
鼻濁音の表記について。
アクセント辞典では、
鼻濁音は、
「か°、き°、く°、け°、こ°」と
か行の濁点のかわりに「°」を付けて表していますが、
ここでは
音を意識しやすいように、
『ンが』『ンぎ』『ンぐ』『ンげ』『ンご』と
表記させていただくことにします。

鼻濁音の基本知識

ではまず、
鼻濁音とはどういうものなのか?
まずはそこから考えてみましょう。
NHKから出ている「日本語アクセント辞典」によれば、
普段私たちが鼻濁音と呼んでいるこの音のことを
「ガ行鼻音」とし、
「語頭以外のガ行音は、原則としてガ行鼻音で発音される」
としています。
例えば「学校(ガっこう)」など、
語頭、つまり単語の先頭に来るガ行音は
鼻濁音になりませんが、
それ以外の多くのガ行音は鼻濁音になるわけです。
そのうえで
例外を挙げています。
それは、
1、擬音・擬態語
2、数詞の「五」
3、複合語の複合度合いの弱いもの
4、(NHKアナウンスセミナーという本ではさらに)外来語
などは鼻濁音にならないとしています(熊谷まとめ)。
アクセント辞典には、
接頭語が付いた場合「お元気」
後部がガ行で始まる複合語で2語の意識の強いもの「美容学校」は、
「お-ゲんき」
「びよう-ガっこう」と、
鼻濁音にならない例が挙げられています。
2語の意識の強いもの、というのは
1語になりきっていない、
つまり、
複合度合いの弱いもの、ということですね。
さらに例外として、
「生米(なまごめ)」など
「なま」と「こめ」が複合語になることで
濁音に変わる現象「連濁」では、鼻濁音「なま『ンご』め」になる、
などと書かれていますが、
私はそれらもすべて
「複合度合いの強さ」という項目で充分であると考えます。
「なまごめ」と連濁するような複合語は
複合度合いが強いわけですからね。
NHKアナウンスセミナーという本では、
外来語と、数詞の五の例外として、
「イギリス」「キング」「十五夜」など、
・日本語化したもの、
・原語でも鼻濁音の発音をするもの、
・熟語化したもの、
は鼻濁音になる傾向がある、
としています。
また
複合の度合いによって、
『ガ』『ンが』両方で発音される、というようなところを見ると
かなりフレキシブルなところもあるようです。
つまりは
鼻濁音になるような言葉というのは、
日本語として「言い慣らされ」「こなれた」印象のある
言葉なのですね。

鼻濁音を使った方が良いことになっている理由

では、
なぜ鼻濁音を使ったほうが良い、と言われるのでしょうか?
それは、
主に、美意識の問題だと思います。
鼻濁音は呼気が鼻から抜けるため、
普通の濁音より、やさしく響き、
聞いた時により滑らかに感じるとともに、
その言葉自体がこなれている印象を与えることができます。
いっぽうで鼻濁音化する欠点は、
その分、音が不明瞭になること、
やりすぎると違和感を与えること、
などが考えられます。
日本語全体においては、
新しい外来語の流入によって、鼻濁音を使わない傾向にあるようですし、
鼻濁音ができないからといって
意味を伝えることができなくなるわけではありません。
ここで、冒頭の、
アナウンサーが使って違和感があった鼻濁音を、
改めて、見てみましょう。
「十五歳」は
数詞の五ですから、原則として鼻濁音化しません。
「東京ガス」は社名ですが、
この単語全体における存在感は「ガス」に重点があり、
東京とガスの複合度合いは比較的低く感じられます。
しかもガスは外来語です。
よって鼻濁音化しないと考えられます。
違和感を感じるのには
やはりなんらかの原因があったわけですね。

鼻濁音についての結論
鼻濁音についての結論です。
1、無理に使うと不自然になるので、気にし過ぎるのは良くない。
2、どうしても鼻濁音をマスターしたいのであれば、
まずは、助詞『が』を鼻濁音にしてみましょう。
「犬『ンが』鳴く」「車『ンが』走る」
など、
『ンが』という感覚を身につけて下さい。
調音点の違いを意識すると、
体で覚えられると思います。
鼻濁音でない「ガ」が、
口の中の、上顎のちょっと前の方、
硬口蓋を息で破裂させているのに対し、
鼻濁音の「ンが」の調音点は、
もっと奥のほう、
しかも、
息で破裂させていない、というこの違いを、
出し分ける練習をすると良いでしょう。
このときの注意点として、
助詞『が』にはアクセントを置かないように!
助詞にアクセントを置かないのは、
アナウンサー的な話し方においては基本なのですが、
一般の方の話し方のなかでも、
是非、参考として知っておくと良いと思うんですよね。
書いてある原稿や、
覚えたセリフ、コメントを言う時に、
助詞を高く上げる癖がある人は、
要注意。
ポイントを強調して伝えたいという気持ちを、
助詞を上げることで表現してしまっている形なのですが、
これがとても不自然で、
素人っぽく、拙く聞こえてしまうんですね。
聞き手に侮られないためには、
助詞は上げないこと。
なかでも鼻濁音の『ンが』が高いのは、
端から見ると、
かなり変な話し方になっている状態ですから、
気をつけましょう。

3、鼻濁音を使うのであれば、
例外をしっかり認識すること。
上述した鼻濁音の例外、
特に「東京・ガス」のような、外来語と、その単語の「複合度合い」には敏感になり、
無理に鼻濁音化しないほうがいいと思います。
鼻濁音というのは
地域によって使わないところも多く、
子供の頃から使い慣れていない人にとっては
習った時に大きな壁になってしまっているようですが、
聞く側にとっては、
無理した鼻濁音を聞くほうが違和感を覚えますから
自然体で臨んだほうがよいでしょう。
また、
「複合度合い」を考えながら読む、という習慣は、
文字になっている文章を、
瞬時に理解する、読解力向上の訓練になったり、
文字を読みながら話す時の、
間違い防止や、
表現力アップに役立ちますから、
日常の、
新聞やネット記事を読む時に、
習慣化すると良いと思います。

