滑舌を悪くする原因。口を大きく開けるのではなく、口の中の空間を意識すれば、滑舌は改善できる。
「口は習慣で変わりやすい」


滑舌という言葉は、かつては、
セリフやアナウンスメントなど、
言葉を明瞭に表すことが必須な職業の人たちの間の専門用語だったのですが、
最近はかなり一般化してきましたね。
文字通りに解釈すると
「円滑な舌の動き」ということですが、
実際には、
すべての発音で、舌が機能しているわけではありません。
声が出るまでの過程には
(1)呼吸(2)声帯の振動(3)共鳴(4)調音
という4つの段階が存在しており、
そのなかで、滑舌というのは
まさに「(4)調音」と同義といっていいでしょう。
私達は
・吸った息を、
・力強く、あるいは、あえて弱々しく吐くことで声帯を震動させ
・口腔内・頭がい骨・体全体で共鳴しつつあるそのエネルギーを
・「口の形」と「舌、歯、唇、硬口蓋、軟口蓋による摩擦など」で調整して
さまざまな音を作り出しています
つまり滑舌というのは、
発音の最終段階にあたります。
↓当サイトの滑舌関連の過去記事もリンクしておきます↓

なぜ、滑舌の欠点=「発音のクセ」ができるのか?

そして、
「どうも、はっきりしゃべることができない」という悩みを持っている人が、
最初に疑い、取り組むのも、この滑舌です。
正直、話し方においては、
滑舌がすべてではないと私は思っていますが、
「一度に、より大勢の人に、誤解なくはっきりと言葉を伝えたい立場の人」
にとっては、一番の悩みの種となることが多いのも事実ですし、
日常会話において、
明らかに自分の発音が不明瞭だとコンプレックスになっている人もいると思います。
つまり人と違うからみっともない、
と思ったり、
純粋に出そうと思っている音がでないことへの、
苛立ちや悔しさも伴うからだと思います。
実は私も、滑舌が悪いことを自覚しています。
だからこそ、改善する方法を現在でも模索し続けています。
ではなぜ、
そのような滑舌の欠点=「発音のクセ」ができるのでしょうか。
まず第1に、
受け口や歯が出ているなど、口の大きさや構造の違い、
舌の長さ、舌の位置という身体的物理的な問題が考えられます。
例えば、
吉本新喜劇で「受け口で滑舌が悪いキャラクターの人」が笑いを取るのを、
見たことがあります。
何を言っているのかよく聞き取れないので、
「あ、から順番に言ってみろ!」と命じられて、
「あいうえお、かきくけこ、しゃししゅしぇしょ!」
で、笑いがドッと起こる。
これが一連の持ちネタになっていました。
芸人さんなら、笑ってもらえれば何より嬉しいことになるのでしょうが、
すべての人がそこまで割り切れるわけでもないでしょう。
滑舌の悪さ、
発音のクセは、
気になる人にとっては、
できれば直したい自分の欠点のひとつだと思うことがあるでしょうし、
アナウンサーでも苦手な音があって、
なんとかもっとすんなりと、綺麗な発音にならないかと、
日々、音の出し方を工夫したりするわけですね。
ちなみに、
サ行の音を出す時の舌は、口の中の下側に据え置かれているだけですから、
滑舌といっても、舌の動きとは全く関係ありませんよね。
サ行の音は、
上下の歯の間から強い息を吐き出すと同時に、
口の形を調節することで、生まれています。
おそらく、この「しゃししゅしぇしょ」の人は、
受け口であることで、
上下の歯の間を、バランス良くとることができないのだと思います。
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大事なのは「口の中のスペースを適切に作ること」

舌の長い短いはどうでしょうか。
「舌足らず」は
話し方のクセの代表例で、
確かに、舌が短いという原因で、
発音が甘くなる、ということはあると思います。
ただ前述のように、
発音すべてにおいて、舌を使っているかと言うとそうではなく、
実際に舌が硬口蓋を弾いて発生している音は、
タ行、ナ行、ラ行ぐらいしかありません。
舌足らずのほとんどは、
そういう「発音の甘い」話し方を、
自分のキャラクターにしている場合が多いのではないでしょうか。
逆に、舌が長い場合、
昔、ロックバンド・KISSのジーン・シモンズの舌の長さに驚いたことがありますが、
ヴォーカリストとして活躍していて、
歌がおかしい、などの話は聞いたことがありませんよね。
舌の長い人は、
タ行、ナ行、ラ行の舌で弾く発音の時に舌が接触する面積が大きくなり、
発音が若干、もったりと重く感じられたり、
口腔内に大きめの空間を作って発音するため、
声が深くくぐもって暗めになる可能性はあると思いますが、
日常生活に支障をきたすほどのクセは、
やり方次第で防げるものです。
大事なのは、
「口の中のスペースを適切に作ること」
舌の短い人は、
口腔内の空間を小さく保てば、普通の発音ができるようになるはずです。
このポイントについては、
また後日、解説いたします。

日々のクセの付け方次第で、比較的短期間で、口は変化しうる

そしてもう一点、
育った環境、使ってきた言葉、生活習慣など多様な要因が、
私達の滑舌に影響を与えています。
話すのが億劫で、笑うことも少なく、
表情筋が衰えてしまうような生活をしていると、
滑舌も悪くなることが考えられますし
方言など、偏った発音を習慣化させると、
滑舌のバランスが失われる可能性があります
例えばズーズー弁で知られる東北や山陰などの方言においては、
明瞭な調音を行なわない習慣があるため、
標準語の発音にするには、なかなか苦労するわけですね。
昔の江戸弁も然りです。
「ひ」を「し」と発音する習慣があったため、
「ひがし」を「しがし」としか言えなかったり、
あるいは、地域の方言だけでなく、
昔の人が、
外来語の「ディー」などの発音ができず「キャンデー」などと言ってしまうのも、
発音の習慣によって出ない音がある例のひとつだと思います。
ただ、私がアナウンサー生活を通して、
日々感じているのは、
「口は変化しやすい部位である」ということ。
肉体的には、
消化器官の末端の片方で、
内部は粘膜で、
その外側を縁取る唇で構成されているもので、
その粘膜は高温から低温まで幅広い温度の食物を受け入れ、
その歯は固い魚の骨や木の実も噛み砕くことが出来ます。
口という器官は、
極めて過酷な使用環境に置かれている、
だからこそ、
とてもフレキシブルにできているのではないかと思うのです。
何が言いたいのかというと、
自分がこんな口になりたいと思えば、
日々のクセの付け方次第で、比較的短期間で変化しうる、ということ。
だからこそ、
良いクセを付けることが大事であり、
あるべき口の形(唇だけでなく、口腔内の空間も)を
知っておくことが間違いなく、必要なのですね。
では次回から、
各論に移ります。
お楽しみに。

